現在〈栞日〉2階の企画展示室では、写真家・キセキミチコさんによる写真展『Dhuvam – 煙霧の地 ネパール -』を開催しています。同名写真集の出版記念で、銀座、名古屋に次ぐ巡回です。タイトルの「Dhuvam(ドゥバム)」はネパール語で「煙」や「霧」を意味する言葉。ゆらめく街の向こう側に、そこに暮らす人々の生活と生命を写し撮る作品群です。モノクロだからこそ訴えてくる表現の力強さを、じっくりと味わっていただけたら。

キセキミチコ 写真展『Dhuvam – 煙霧の地 ネパール -』
▼ 日程|2026.7.17[金]- 8.3[月]
▼ 会場|栞日2階 企画展示室[入場無料]

2025年1月、私はネパールを旅していた。突然の渡航だったが気づけば、たったの10日間の滞在だったにもかかわらず、たくさんの出会いとネパールの“小さな声”が私の中に溢れた。
ヒマラヤを抱く小さな国ネパールは、多民族・多宗教であり、カースト制もいまだに残る。周辺国が植民地化されていく中で、ネパールは他国の支配を受けることなく独立を保ってきた。首都カトマンズ、大気汚染が街の輪郭を曖昧にする一方で、皮肉なほど美しい光が朝の街を包み込んでいた。ヒンズー教最大の寺院・パシュパティナート。ここは火葬場でもあり、1日50人ほどが弔われる場所で、目の前で次々と焼かれていく遺体に、生と死、肉体と魂、目の前の現実、死を受け入れ、乗り越えていくこと、あらゆる死生観が込み上げてきた。
Thimiという街で出会った学校帰りの中学生の女の子たちは、私の肌の白さや年齢の割に見た目の若さに羨望の眼差しを向けているのに対し、私は思わず「あなた達には未来があるし、可能性だってたくさんある」と声をかけてしまった。けれど返ってきたのは、「ここはネパールなの。途上国のネパールで私たちには可能性なんてない」という、13歳の少女の言葉だった。無邪気に”可能性”を語った自分の言葉を恥じた。仲良くなった24歳の青年Nにも、「うん、そうだね。ここでは成功なんてない。でも、僕はここにいる。生まれ育った、ネパールが好きなんだ」と言われた。彼らと交わす何気ない会話の節々に、彼らの生き様が溢れ出ていたんだ。
誰もがそれぞれの選択をしながら、一生懸命生き、そして生まれ故郷を大事にしている。それは、どこにいっても普遍のことだった。
キセキミチコ
父親の仕事によりベルギーに生まれ、香港、フランスに移り住む。14歳で日本に帰国。マグナム写真に影響を受け、日本大学藝術学部写真学科に進み報道写真のゼミを専攻するも、音楽のパワーに魅了される。スタジオ、アシスタントを経て独立し、ミュージシャンのポートレイト、ライブ写真、広告写真などを手掛けながら、個展、グループ展などを多数開催。数々の写真賞に入選。2017年、日本の田舎に憧れを抱いて撮った写真集『DRYNESS』を私家版写真集として発刊。がむしゃらに階段を駆け上っていく中で葛藤と闘い、新たに自分を見つめるため幼少期育った香港を訪れる。人々の生きるパワーに圧倒され、彼らの姿を撮るべく2019年7月、長期滞在ロケのため渡航。そこで香港民主化運動に遭遇し、間違ったことに声をあげる人々の戦いに心が震え、泣きながら最前線で写真を撮り続ける。2021年、第4回写真出版大賞受賞。2022年2月『VOICE香港2019』を刊行。写真家として改めてスタートラインに立つ。「自分の気持ちに正直に写真を撮る」を信条に、写真と向き合っている。


